EC事業では、仕入れから顧客へ商品が届くまでの流通管理が欠かせません。一方で、配送コストの高騰や物流ネットワークの不安定化といったサプライチェーンの課題により、欠品や配送遅延などのトラブルを完全に避けることは難しくなっています。
こうした不測の事態へ対処するためには、調達から販売までのプロセスに関わる各部門や取引先が、必要な情報を共有できるサプライチェーンの可視性を高めておくことが重要です。本記事では、サプライチェーンの可視性の意味や仕組み、重要性、課題と改善方法、最新トレンドについて解説します。

サプライチェーンの可視性とは
サプライチェーンの可視性(SCV:Supply Chain Visibility)とは、商品や原材料の調達から製造、保管、配送、販売に至る各工程で、在庫量や商品の所在地、進捗などを明確にし、関係者間で共有できる度合いを指します。
サプライチェーンには、仕入れ先やメーカーといったサプライヤーのほか、商品の保管を担う倉庫会社、輸送を担う物流事業者、販売を担う小売事業者など、多くの企業や部門が関わります。それぞれが保有する情報を連携することで、「どこに、何が、どれだけあるのか」「予定どおりに生産や配送が進んでいるか」を関係者が必要に応じて把握できる状態を目指します。
可視性を高めることで業務効率化につながるほか、問題が発生した場合には、影響を受ける商品や工程を特定して在庫の移動や配送経路の変更といった意思決定を迅速に行いやすくなります。
サプライチェーンで可視化する情報
- 在庫情報:各拠点にある商品の種類、数量、保管場所
- 受発注情報:商品の注文数、発注状況、入荷予定
- 生産情報:原材料や部品の在庫、製造工程の進捗、生産能力
- 輸送情報:輸送中の商品の所在地、配送状況、到着予定時刻
- 輸送、保管環境:輸送時、保管時の温度、湿度、衝撃など
- 需要情報:販売実績や季節変動など、需要予測に用いるデータ
- リードタイム:発注、製造、輸送、納品などの各工程にかかる時間

サプライチェーンを可視化する仕組み
1. データを収集して統合する
サプライチェーンのなかでは、商品の所在地や在庫量、輸送中の温度など様々なデータが活用されています。商品の入荷や出荷の履歴は倉庫管理システム(WMS)、輸送計画や配送状況は輸配送管理システム(TMS)といった形で、データはさまざまなシステムに点在している可能性があります。まずは、これらのデータをERPなどのひとつのプラットフォーム上へ統合する必要があります。
2. データを共有する
次に、サプライヤーやメーカー、倉庫の管理者、物流業者など、サプライチェーンに携わる関係者の間でデータを共有できる仕組みが必要になります。クラウドベースのプラットフォーム間はAPI連携により、異なるシステム間でも受発注、在庫、配送などの情報を相互に反映しあうことができます。
3. データを分析する
統合されたデータをもとに、需要の変化や在庫の推移、配送状況などを分析します。例えば、過去の販売実績と現在の在庫量を照らし合わせることで、今後必要になる在庫量を予測できます。
AIツールや機械学習技術を活用すれば、リアルタイムの膨大なデータを監視して過去の傾向と比較し、需要の変化や異常を検知することができます。分析によって得られた結果は、発注や生産、配送の最適化に活用できます。
4. 分析結果を可視化して共有する
データや分析結果は、ダッシュボードやレポートを通じて必要な関係者がアクセスできるようにしておきます。在庫量や生産状況、配送の進捗などをグラフや表といった形で視覚的にわかりやすく表示できれば、管理業務を効率化できるでしょう。在庫量が設定値を下回った場合や、配送に遅れが発生した場合の自動アラート機能を活用すれば、迅速な対処も可能になります。

サプライチェーンの可視性が重要な理由
業務を効率化してリードタイムを短縮できる
サプライチェーンの可視性を高めることで、商品や情報の流れが滞っている工程を特定しやすくなります。例えば、特定の製造工程に時間がかかっている場合や、商品が倉庫に長くとどまっている場合は、その原因を調べて工程を見直せます。
仕入れ先やメーカー、物流事業者などが情報を共有して連携を強化することで、それぞれのリードタイムを短縮し業務効率化につなげられます。
供給リスクを抑えて事業継続性を高められる
サプライチェーンの各工程から得られるデータを監視することで、生産の停止や配送の遅延などにつながるリスクを早期に発見できます。また、緊急時に備えて事業継続計画(BCP)を策定し、別の仕入れ先への切り替えや配送経路の変更などを検討しておくことでトラブルの影響を抑えることができます。
製造時期や保管場所、出荷先を追跡できるようになることで、リコール管理や規制遵守につながるサプライチェーンの透明性を確保することができます。
在庫や物流のコストを削減できる
各拠点の在庫量と商品の動きを確認することで、需要に対して在庫が多すぎる場所や不足している場所を把握できます。拠点間で在庫を調整すれば、過剰在庫による保管費用や欠品による販売機会の損失を抑え、結果としてキャッシュフローの改善にもつながります。配送状況を分析して輸送経路や日程を見直すことで、物流コストの削減も期待できます。
顧客満足度を高められる
在庫や配送に関する情報を正確に把握すると、商品の在庫状況や入荷予定日、配送中の商品に関する追跡情報を顧客に提供できるようになります。顧客の不安を減らし、安心して商品を受け取れる購入体験を提供することで、顧客満足度の向上につながります。
需要予測と意思決定の精度を高められる
販売実績や在庫量、生産状況などの情報をまとめて分析することで、今後の需要予測がしやすくなります。季節による売れ行きの変化や販売チャネルごとの動向を確認し、仕入れ量や生産量、在庫の配置に反映できます。
経験や勘だけに頼らず、蓄積した情報を根拠として判断できるようになることも重要です。需要や供給の変化に合わせて仕入れや生産の計画を調整し、適切な在庫量を維持するための判断につなげられます。

サプライチェーンを可視化する際の課題
- 情報が分散している:調達、生産、在庫、配送などの多様なデータは、異なる部門や組織、システムに分散している可能性があります。ほかのシステムからアクセスできないデータサイロが発生していると、サプライチェーン全体でのデータ共有が滞り、可視性は低くなってしまいます。
- 情報の形式や品質が統一されていない:商品コードや数量の単位、更新頻度などを完全に統一するのは難しい場合があります。古い情報や不正確なデータが含まれていると、可視性を高めたとしてもその効果が十分に発揮されなくなってしまいます。
- 取引先や部門間の連携が難しい:企業や部門によって使用するシステムや業務の進め方が異なるため、必要な情報が集まらなかったり、更新に時間がかかったりすることがあります。
- 導入と運用にコストがかかる:商品の位置や温度、湿度、衝撃など細かなデータを計測するIoTセンサーの設置を始め、システムの導入や連携、さらに従業員への教育にも費用と時間がかかります。
- セキュリティ対策が必要になる:サプライチェーンのなかでは、在庫や仕入れ価格、取引先、顧客の個人情報など、社外に出せないデータも多数扱われています。不正アクセスや情報漏えいを防ぐとともに、それぞれの関係者が必要なデータにだけアクセスできるよう個別にコントロールする対策が必要です。

サプライチェーンの可視性を高める手順
1. 目的とKPIを決める
欠品の削減や配送遅延の防止など、可視化によって解決したい課題を明確にします。在庫回転率や納期遵守率などのKPIを設定し、取り組みの効果を測れるようにしましょう。
2. 現在の情報管理体制を確認する
どの部門や取引先が、どのような情報を管理しているかを整理します。必要な情報が不足している工程や、情報が共有されていない箇所を確認することで、優先して改善すべき範囲を判断できます。
3. 必要なシステムや技術を選ぶ
確認したい情報と現在の課題に応じて、システムや技術を選定します。既存システムと連携できるか、必要な情報を継続的に収集して分析できるかも確認が必要です。
4. 情報共有のルールを決める
社内の各部門や取引先との間で、共有する情報、更新のタイミング、閲覧できる範囲を決めます。問題が発生した際の連絡先や対応する担当者も明確にしておきましょう。
5. 対象を限定して導入する
最初からサプライチェーン全体を対象にせず、在庫管理や配送管理など、優先度の高い範囲から始めます。導入後はKPIを確認し、問題点を改善しながら対象範囲を広げていきます。

サプライチェーンの可視性に関する最新トレンド
- サステナビリティとエシカル(倫理的)調達への関心の高まり:原材料の調達先や生産時の労働環境、輸送や製造に伴う温室効果ガスの排出量などを追跡する動きが広がっています。これらの情報の透明性を高め、企業倫理や社会的責任への取り組みを発信することで、競合優位性にもつながります。
- AIと機械学習の活用拡大:AIツールは膨大なデータのリアルタイムな分析も可能とし、需要の増減や欠品、配送の遅延などの予測に活用することができます。発注量の調整や在庫の配置など、問題が起きる前の対処や判断をサポートします。
- デジタルツインによるシミュレーション:デジタルツインとは、現実の状況を仮想空間上に再現する手法です。サプライチェーンに応用すると、仕入れ先や輸送経路、生産量などの条件を変更したケースをシミュレーションし、実際の業務に反映する前に影響を検証できます。
- リアルタイムデータ連携の高度化:IoTセンサーやクラウドサービスを通じて、各工程の情報を随時共有する仕組みが進化しています。配送の遅れや輸送環境の異常を早期に検知し、対応までにかかる時間を短縮できます。
まとめ
サプライチェーンの可視性(SCV)を高めることで、在庫量や商品の所在地、生産や配送の進捗に関するデータを関係者間で共有し、業務効率化やリスクへの対応、コスト削減などにつなげられます。AIやデジタルツインといった技術の活用も進み、問題の把握だけでなく、需要の変化や配送遅延を予測することも可能になっています。
まずは、自社が抱えるサプライチェーンの課題を整理し、可視化する目的と範囲を明確にしましょう。在庫管理や配送管理など、EC物流において優先度の高い工程から導入し、効果を確認しながら対象を広げていくことが大切です。
サプライチェーンの可視性に関するよくある質問
サプライチェーンの可視性とは?
サプライチェーンの可視性とは、原材料の調達から製造、保管、配送、販売に至るまで、在庫量や商品の所在地、各工程の進捗などを把握し、関係者間で共有できる度合いを指します。
サプライチェーンの可視性とサプライチェーンマネジメント(SCM)の違いは?
サプライチェーンの可視性は、効率的なサプライチェーンマネジメント(SCM)を支える重要な土台となります。サプライチェーンマネジメントは、可視化された情報を活用して調達から販売までの流れを管理し、全体を最適化する手法です。
サプライチェーンを可視化するメリットは?
- 業務を効率化し、リードタイムを短縮できる
- 供給の遅れや停止などのリスクに対応しやすくなる
- 過剰在庫や物流にかかるコストを削減できる
- 在庫状況や到着予定を案内しやすくなり、顧客満足度の向上につながる
- 需要予測や意思決定の精度を高められる
サプライチェーンの可視性を高める手順は?
- 目的とKPIを決める
- 現在の情報管理体制を確認する
- 必要なシステムや技術を選ぶ
- 情報共有のルールを決める
- 対象を限定して導入する




