ECサイトを立ち上げる際、多くの事業者は集客や売上の最大化に注力しがちです。しかし、セキュリティ対策が不十分なまま運用を始めると、ひとたび事故が発生した際に、売上以上の損失や信頼低下を招くリスクがあります。安全性の確保は、事業を安定して成長させるための前提条件といえます。
本記事では、ECサイトでセキュリティが重要視される理由、サイバー攻撃の手口と事例、具体的なセキュリティ対策を紹介します。

ECサイトでセキュリティが重要視される理由
個人情報や決済情報が狙われやすいため
ECサイトには、氏名、住所、電話番号、メールアドレスなどの個人情報や、クレジットカードなどの決済情報が集中しています。これらの情報は闇市場で価値が高く、実際にECサイトがサイバー攻撃のターゲットとされるケースは数多く発生しています。特に、オープンソースプラットフォームを利用して構築したサイトは、脆弱性が見つかるとすぐ攻撃対象とされることもあるため注意が必要です。
攻撃を受けた場合の影響が大きいため
ECサイトで情報漏えいや不正アクセスが発生すると、企業の信頼失墜や経済的損失につながります。対策が完了するまでサイトを停止せざるを得ないことによる売上損失はもちろん、顧客に対する損害賠償や補償対応が発生するかもしれません。さらに、安全性に対する信頼を損なうことで顧客離れが進むうえ、ニュース記事などが残りブランド価値の低下や事業継続そのものに回復できないほどの影響が及ぶ可能性があります。

主なサイバー攻撃の手口
ECサイトは個人情報や決済情報を扱うため、さまざまなサイバー攻撃の標的となります。ここでは、代表的な攻撃手法と、実際に発生している被害の傾向を整理します。
不正ログイン(アカウント乗っ取り):不正に入手したID・パスワードを使ってログインする攻撃です。不正ログインが行われた場合、管理者アカウントであれば機密情報の窃取やサイトの改ざん、利用者アカウントでは不正決済などの被害が発生します。
ECサイトの改ざん:管理画面やサーバーへの侵入により、サイトの内容を書き換えられたり、バックドア(不正アクセス用の入口)を設置されるケースです。決済ページからクレジットカード情報を外部に送信されたり、フィッシングサイトや通販詐欺サイトへ転送されたりすることが考えられます。
フィッシング:実在する企業やサービスを装ったメールやSMSを送り、ログイン情報やカード情報の入力を誘導する手口です。ECサイト利用者だけでなく、運営者や従業員も標的になる点に注意が必要です。
マルウェア感染:悪意あるプログラムを使って情報窃取やシステム破壊を行う攻撃です。改ざんされたECサイト内に埋め込まれ、ブラウザを通じてユーザーのPCなどへ感染するケースがあります。感染すると、データを暗号化して身代金を要求する「ランサムウェア」や、PCの遠隔操作による被害が発生します。
SQLインジェクション:入力フォームなどの脆弱性を突き、データベースに不正な命令を送り込む攻撃です。顧客情報の閲覧・改ざん・削除につながる可能性があり、古くからある代表的な攻撃手法の一つです。
DoS/DDoS攻撃:大量のアクセスを送りつけてサーバーに負荷をかけ、サイトを停止させる攻撃です。売上機会の損失や、サービスの信頼低下につながります。
ゼロデイ攻撃:発見されたばかりで修正されていない脆弱性を狙う攻撃です。対策の遅れにより被害が拡大しやすく、最新のアップデート管理が重要になります。
ECサイトのセキュリティ対策強化に役立つガイドライン
ECサイトのセキュリティ対策を体系的に理解するうえで参考になるのが、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が公開している「ECサイト構築・運用セキュリティガイドライン」です。このガイドラインは、情報漏えいや不正アクセスといったセキュリティインシデントを未然に防ぐことを目的に、経営者と実務担当者の双方に向けて作成されています。
内容は、単なる技術対策にとどまらず、被害事例や中小企業における対策状況を踏まえながら、ECサイトの新規構築時・運用時それぞれで実施すべきセキュリティ要件を整理している点が特徴です。さらに、具体的な対策項目をチェックリスト形式で確認できるため、自社のセキュリティレベルを客観的に見直す際にも活用できます。

ECサイトのセキュリティ対策のポイント
アカウント・認証管理
パスワードポリシーと権限管理の徹底:推測されにくい複雑なパスワードを設定し、使い回しを禁止します。また、管理画面へのアクセス権限は最小限に抑え、担当者ごとに権限を分割することで、一部のアカウントが不正利用されても被害を少なくする可能性が高まります。
二要素認証(2FA)・多要素認証(MFA):ログイン時にSMSや認証アプリなどを組み合わせることで、パスワードが漏えいしても不正ログインを防ぎます。
ワンタイムパスワード:一定時間のみ有効な使い捨てパスワードを用いることで、認証情報の悪用リスクを低減できます。特に顧客向けログインや決済時の本人確認において有効です。
ソフトウェア・システムの更新
ソフトウェアのアップデート:ECプラットフォーム、サーバーソフトウェアは常に最新の状態を維持します。既知の脆弱性を放置すると、攻撃の入口になります。
プラグイン・拡張機能の管理:必要なものだけを利用し、不要なプラグインは削除します。更新が停止しているものや信頼性の低いものは脆弱性が生まれる可能性があるため、使用を避けます。
不要機能の削除:使っていない機能やテスト用の設定を残したままにすると、攻撃対象になる可能性があります。定期的な見直しが必要です。
通信・データの保護
SSL/TLS(HTTPS)の適用:通信内容を暗号化し、第三者による盗聴や改ざんを防ぎます。
個人情報の暗号化:顧客情報や認証情報は、保存時にも暗号化することで、万が一の漏えい時の被害を軽減できます。
データバックアップ:注文データや顧客情報、商品情報などの重要データは、取得対象・頻度・保存期間・保存場所・復元手順まで含めて設計します。復元テストも定期的に実施し、実際に復旧できる状態を保つことで、サイト改ざんやデータの破壊といった攻撃が発生した場合に迅速な復旧が可能となります。
ウイルス対策ソフトの活用:運用端末やサーバーに対して、ウイルス対策ソフトを適用することでマルウェアなどの感染経路を遮断します。
決済セキュリティ
PCI DSSへの対応:クレジットカード情報を扱う場合は、国際的なセキュリティ基準であるPCI DSSに準拠した環境を利用します。
3Dセキュア(本人認証):決済時に追加認証を行うことで、不正利用のリスクを低減します。
外部決済サービスの活用:Shop Pay(ショップペイ)などの決済代行サービスを利用することで、カード情報を自社で保持しない設計にでき、リスクを低減できます。
不正注文検知:通常と異なる購入パターン(高額商品の連続購入、住所不一致、短時間の大量注文など)を検知し、ECサイトの不正注文を自動的に遮断するシステムです。近年は機械学習を活用した検知が一般的です。
不正アクセス対策
IP制限:管理画面へのアクセスを特定のIPアドレスに限定することで、外部からの侵入リスクを抑えます。
ログイン試行回数の制限: 一定回数以上のログイン失敗でアカウントをロックすることで、総当たり攻撃を防ぎます。
Bot対策(reCAPTCHA(リキャプチャ)など):自動化された攻撃を防ぐために、人間とBotを識別する仕組みを導入します。
脆弱性対策
定期的な脆弱性診断:自動ツールや専門家による診断(ペネトレーションテスト)を実施し、システムの弱点を事前に把握・修正します。
WAF(Webアプリケーションファイアウォール)の導入:Webアプリケーションへの通信を監視し、不正なリクエストを検知・遮断します。SQLインジェクションやクロスサイトスクリプティングなど、Web特有の攻撃に対して有効な対策です。
従業員教育・運用ルール
セキュリティ教育の継続実施:フィッシング対策や情報管理ルールを、定期的な研修やeラーニングで継続的に周知します。非専門職でも理解できる内容で実施することが重要です。
アカウント共有の禁止:ログイン情報の共有を禁止し、個人単位での管理を徹底します。誰が何を行ったかを追跡できる状態を維持します。
インシデント対応体制の整備:セキュリティ事故発生時の対応手順(責任者、連絡体制、復旧優先順位など)を事前に文書化します。定期的に見直しと訓練を行い、実際に機能する体制を構築します。
まとめ
ECサイトのセキュリティは、事業継続と信頼維持に直結する重要な課題です。個人情報や決済情報を扱うため攻撃者から狙われやすく、もしもサーバー攻撃やセキュリティ事故が発生してしまった場合に生まれる被害の大きさは計り知れません。
不正ログインやフィッシング、サイト改ざんなどの被害は企業規模を問わず発生しており、対策は必須です。公的機関の公開しているガイドラインも参考にしながら、アカウント管理、システム更新、データ保護、決済対策、従業員教育など幅広い観点で対策を行い、安全で信頼されるECサイト運営を目指しましょう。
ECサイトのセキュリティ対策に関するよくある質問
ECサイトのセキュリティ対策は義務化された?
ECサイト全体に対する包括的な義務は明文化されていませんが、個人情報保護法に基づく安全管理措置や、クレジットカードを扱う場合の割賦販売法への対応は義務です。さらに近年は、業界ガイドラインの強化により、脆弱性対策や3Dセキュアの導入などが実質的に必須となっています。
セキュリティ事故発生時はどのように対応する?
まず被害範囲を特定し、該当システムの停止や隔離など初動対応を行います。そのうえで、社内報告と並行して顧客や関係機関への通知を実施します。顧客に身に覚えのない購入が確認された場合は、カード会社と連携し、チャージバックの手続きにも対応します。あわせて原因を調査し、再発防止策を講じることが重要です。
文:Norio Aoki





