企業が安定したビジネスを運営していくには、原材料や商品の調達先であるサプライヤーと良好な関係を築いていくことが重要です。そのために価格や供給品質などの面から各サプライヤーを評価し、ビジネスパートナーとしての連携を強化していく取り組みは、SRM(サプライヤー関係管理)と呼ばれます。
本記事では、SRMの基本的な考え方や、安定した調達に役立つフレームワークとKPIの設定方法、活用できるツールなどを解説します。

SRM(サプライヤー関係管理)とは
SRM(Supplier Relationship Management/サプライヤー関係管理)とは、双方にとってより大きな価値を生み出す観点から、卸売業者やメーカーといったサプライヤーとの関係を築いていく取り組みのことです。
SRMでは単に価格や納期を管理するだけでなく、品質や供給安定性の向上、供給リスクの低減などを目指して、サプライヤーとの連携を戦略的に強化していきます。そのためには、調達プロセスの各段階に指標を設定してサプライヤーを総合的に評価、分類し、ビジネスへの影響度が高い関係にリソースを集中させていくことも重要となります。またこれらの分析が、サプライチェーンの課題への早期対応や、新たな商品アイデアの発見につながることもあります。
SRMとサプライヤー管理の違い
SRMはサプライヤーとのパートナー戦略の構築を目的とするのに対して、単にサプライヤー管理という場合は個々の取引の運用管理を指します。
サプライヤー管理では、発注、納期、価格、品質、契約内容など、日々の調達業務を円滑に進めるための実務的な管理が中心です。一方、SRMはサプライヤーとの関係そのものを中長期的に捉え、重要な取引先との連携強化や共同改善、リスク低減、価値創出まで含めて管理します。

小売事業でSRMが重要な理由
納期遵守と在庫の安定につながる
小売事業では、商品の欠品や納品遅延が発生すると、販売機会の損失や顧客満足度の低下につながります。SRMの実践によりサプライヤーとの情報共有や連携を強化することで、発注状況や納期、生産体制などを把握しやすくなり、問題が発生した際にも早期に対応できます。
たとえば、需要予測や販売計画をサプライヤーと共有すれば、必要な在庫を確保しやすくなります。繁忙期やセール時期など需要が変動しやすい場面に備えて、納期遵守率を定めたSLA(サービスレベル契約)の締結や、配送時間を短縮できる近隣のフルフィルメントセンターでの在庫保管などにより、安定した供給体制を構築することが可能です。
サプライチェーンのリスクやコンプライアンスに対応できる
小売事業では、原材料不足や物流の遅延、自然災害、国際情勢の変化など、さまざまな要因によって商品供給が滞る可能性があります。また、法令に定められた環境や人権などに関する基準への対応もサプライチェーンに関わってきます。SRMの取り組みを通じてサプライヤーの経営状況や供給能力、コンプライアンスへの対応状況を継続的に評価することで、潜在的なリスクを早期に把握できます。
問題が発生した場合に備えて代替サプライヤーや対応策を検討しておけば、サプライチェーンへの影響も抑えやすくなります。安定した事業運営のためにも、継続的なリスク管理が重要です。

SRMに取り組むメリット
サプライヤーリスクを管理できる
特定のサプライヤーへの依存度が高い場合、あるいは納品遅延や品質低下が続いている場合には、状況が少し変化するだけでも供給が滞るリスクが高くなります。そこでSRMでは、重要度やリスクの大きさに応じてサプライヤーを分類し、代替調達先の確保や発注先の分散、取引条件の見直しなども進めていきます。
こうしたリスク軽減の取り組みは、サプライヤーにとってもメリットがあります。需要予測の共有や、購入から支払いまでの期間の明確化を行うことで、キャッシュフローの管理や生産調整を行いやすくなり、サプライヤーの経営安定化にもつながります。。
調達プロセスを効率化できる
SRMにより継続的な情報交換とコミュニケーションを行うことで、サプライヤーが持つ製造や物流に関する知見を吸収できます。これにより、調達プロセスの合理化や経費削減につながる可能性があります。
競合企業も含めて複数の取引先を持つサプライヤーであれば、自社だけでは得にくい業界動向や需要予測の情報を提供してくれるかもしれません。商品の品質改善や新商品の開発、納期短縮、コスト最適化といった成果も生まれやすくなります。
サプライヤーから得られる価値を最大化できる
SRMでは、サプライヤーを単なる仕入先としてではなく、事業成長を支えるパートナーとして捉えます。適切な評価やフィードバックを続けることで、双方の課題や目標を共有しやすくなり、協力関係の強化にもつながります。
たとえば、スペースの限られたポップアップストアなどで食品を扱うといった場合に、サプライヤーの最低注文数である50個の冷蔵商品を保管しきれないケースが考えられます。SRMを通じてサプライヤーと信頼関係が築けていれば、最低注文数や分割納品について交渉できたり、一時的に利用できる近隣の冷蔵倉庫を紹介してもらえる可能性もあります。価格面だけではない価値を、双方から提供しあうことで最大化できます。

SRMのフレームワークとKPI
クラリッチ・マトリックス
クラリッチ・マトリックスは、調達する品目やサプライヤーごとに、適切な調達戦略を検討するためのフレームワークです。
「利益への影響度」と「供給リスク」の2軸で評価し、その高低によって戦略品目、ボトルネック品目、レバレッジ品目、非重要品目の4つに分類します。たとえば、利益への影響度と供給リスクの両方が高い場合は戦略品目となり、サプライヤーとの長期的な関係構築や綿密な情報共有が重要です。一方、利益の影響が高いものの供給リスクが低い品目は、代替品が市場にある可能性も高く、価格交渉や業務効率化でさらに価値を引き出せるかもしれません。
SRMにクラリッチ・マトリックスを活用することで、すべてのサプライヤーを同じ基準で管理するのではなく、重要度に応じて経営資源を配分し、より効果的な関係管理を進められます。
サプライヤー評価で活用する主なKPI
SRMでは、サプライヤーとの関係を感覚ではなく客観的に評価するためにKPIを設定します。主な指標としては、納期遵守率、不良率、欠品率、発注から納品までのリードタイム、コスト削減率、問い合わせへの対応速度などがあります。たとえば、納期遵守率を確認すれば供給の安定性を、不良率を確認すれば商品の品質を把握できます。
また、価格だけでなく、改善提案の件数や対応力、コンプライアンスへの対応状況などを評価項目に含めることも重要です。KPIはサプライヤーごとの役割や重要度に合わせて設定し、定期的に結果の共有と見直しを行いながら、交渉や改善につなげていきます。

SRMの進め方
1. サプライヤーを分類する
SRMを進める際は、まず取引しているサプライヤーをクラッチ・マトリクスにより分類します。優先順位を明確にすることで、限られた人員や時間を重要なサプライヤーに集中させやすくなります。また、分類を行うのは一度きりではなく、四半期ごとや需要が急増した際などに再評価を行うことで、サプライヤーの変化を把握することができます。
2. 重要なサプライヤーとの連携を強化する
サプライヤーを分類した後は、事業への影響が大きい重要なサプライヤーとの連携を強化します。
定期的なミーティングや情報共有の場を設け、需要予測、販売計画、在庫状況、品質上の課題などを共有することが重要です。双方が今後の見通しや課題を把握できれば、納品遅延や欠品などのリスクにも早めに対応しやすくなります。
また、一方的に要求するのではなく、改善点や目標を共有しながら協力して取り組むことで、品質向上やコスト最適化、新商品の開発などにつながる可能性もあります。継続的なコミュニケーションを通じて信頼関係を築き、長期的に安定した取引関係を目指します。
3. サプライヤー管理計画を策定する
重要なサプライヤーとの連携方針を整理したら、具体的なサプライヤー管理計画を策定します。
この計画には、取引の目的や目標、評価するKPI、担当者、コミュニケーションの頻度、リスク発生時の対応方法などを盛り込みます。計画を明文化しておけば、担当者間で対応方針を統一しやすくなり、属人的な管理も防げます。双方で目標や役割を共有し、継続的に改善できる仕組みを整えることがSRMの実効性を高めます。
4. KPIを定期的に確認・改善する
サプライヤー管理計画を策定した後は、設定したKPIを定期的に確認し、必要に応じて改善を進めます。納期遵守率、不良率、欠品率、リードタイム、コスト削減率などの実績を継続的に確認することで、サプライヤーごとの課題や変化を把握しやすくなります。
また自社についても、納期や最小発注数量はサプライヤーにとって十分なものか、支払い条件を満たせているかといった面から、振り返りを行う必要があります。サプライヤー側の期待に応え、満足度を維持することも供給リスクを低減するために重要となります。一般的にこれらの評価と見直しは、四半期ごとのサイクルで行っていきます。

SRMに活用できるツール
Shopify(ショッピファイ)
ShopifyはSRM専用のシステムではなくECプラットフォームですが、サプライヤー管理や発注、在庫管理に活用できる機能を備えています。管理画面では、サプライヤーの連絡先情報や住所、決済条件、通貨などを登録・管理でき、サプライヤーごとの注文書も作成できます。注文データとして商品、数量、費用、決済条件などを記録できるため、仕入れ状況を一元的に把握しやすくなります。
商品の入荷状況を追跡できるほか、複数ロケーションの在庫管理にも対応しています。こうした機能を活用することで、サプライヤーとの取引情報と在庫状況をまとめて管理し、調達業務の効率化や安定した在庫確保につなげられます。
Shopifyと連携できるサプライヤー管理アプリ
Shopify App Storeからアプリを追加することで、サプライヤーとの取引や商品の仕入れを効率化することもできます。仕入れ関連のアプリには、サプライヤーからの商品調達や在庫情報の同期、注文情報の送信などに対応するものがあり、手作業によるデータ入力や確認作業の削減に役立ちます。また、卸売やドロップシッピングなど、事業形態に応じたアプリを選択することも可能です。
- Mimoran Purchase Orders:各サプライヤーとのやり取りや発注といった購買業務を、統一されたプラットフォーム上から行えるようになります。カタログやCSVから発注書を作成でき、入荷処理を行うと在庫数や支払金額が自動更新されます。
- 低在庫アラート & 在庫予測:商品の在庫数がしきい値を下回ると、自社とともにサプライヤーにも通知されるアプリです。また、売れ行きから販売量を予測し、自動でしきい値を算出する機能もあります。
大企業向けのSRMシステム
取引するサプライヤー数が多く、調達業務が複雑な大企業では、サプライチェーン管理の専用システムを導入しているケースもあります。これらのシステムでは、サプライヤー情報や契約内容、調達実績、品質、納期、リスク、KPIなどを一元管理できる機能が搭載されています。また、サプライヤーの評価や承認フロー、リスクモニタリング、レポート作成などを自動化できる製品もあります。
ERPと連携すれば、調達情報を在庫、会計、販売などの社内データと結び付け、より効率的に管理することも可能です。特にグローバルに調達を行う企業では、サプライヤーごとの状況を統一された基準で把握しやすくなるメリットもあります。

SRMでよくある課題
サプライヤーと情報共有ができていない
SRMでは、サプライヤーの供給能力や生産能力を把握することが重要です。サプライヤーも取引先は1社ではなく他の事業者に供給しており、余力がなければ自社からの急な発注増などに対応できない可能性もあるためです。重要なサプライヤーとは、自社から販売データやリアルタイムの在庫量を共有するとともに、供給能力についての情報を提供してもらうように交渉しておきましょう。
コスト削減だけを重視してしまう
SRMでは、仕入れ価格の引き下げだけを重視すると、長期的な取引関係や供給の安定性を損なう可能性があります。過度な値下げ交渉は、サプライヤーの利益を圧迫するだけでなく、単一のサプライヤーに頼ることで事業リスクも高くなってしまうことにつながります。
また、価格だけでサプライヤーを評価すると、技術力や提案力、柔軟な対応力、安定供給といった重要な価値を見落としかねません。SRMでは、複数の観点から総合的に評価し、サプライヤーと自社の双方が継続的にメリットを得られる関係を構築することを目指します。
KPIが明確に設定されていない
SRMでは、サプライヤーとお互いの期待値をすり合わせておくことが重要です。たとえば、自社では注文から配送まで3営業日と想定している一方、サプライヤー側は一般的に5営業日と設定しているなど、双方の認識がズレているケースも考えられます。
こうした事態を避けるには、KPIや評価基準を明確にし、契約書に記載するなどしてサプライヤーとの共通認識にしておく必要があります。また、事業環境やサプライヤーの状況が変化した場合に対応できるよう、これらのKPIも四半期ごとに見直していきます。

SRMを成功させるためのポイント
目的を明確にする
SRMを成功させるには、まず何を目的としてサプライヤーとの関係を強化するのかを明確にすることが重要です。目的が曖昧なままでは、評価するKPIや優先すべき施策も定まりにくくなります。
たとえば、供給の安定化を重視する場合は納期遵守率や欠品率、品質向上を目指す場合は不良率や改善件数、コスト最適化を重視する場合は調達コストや削減率など、目的に応じて設定すべき指標は変わります。目的と指標をお互いに共有しておくことでコミュニケーションの齟齬を防げるとともに、サプライヤーから改善策を提案してもらえる可能性も高まるなど、良好な関係づくりにつながっていきます。
支払い期日を守る
サプライヤーとの良好な関係を維持するには、契約で定めた支払い期日を守ることが基本です。支払いの遅延が続くと、サプライヤー側の資金繰りに影響を与えるだけでなく、自社に対する信頼の低下にもつながります。
特に中小規模のサプライヤーにとっては、入金時期が事業運営に大きく影響する場合があります。安定した取引を続けるためにも、請求書の受領から承認、支払いまでのフローを明確にし、遅延が起きにくい体制を整えることが重要です。
契約内容を明確にする
SRMを円滑に進めるには、サプライヤーとの契約内容を明確にしておくことが重要です。価格や数量、納期、品質基準、支払い条件、返品・交換の条件、契約期間、責任範囲などを文書化しておくことで、取引中の認識違いやトラブルを防ぎやすくなります。特に品質不良や納品遅延が発生した場合の対応方法や、契約変更・解除の条件をあらかじめ整理しておけば、問題が起きた際にも迅速に対応できます。
また、法令遵守や機密情報の取り扱い、情報セキュリティなど、自社にとって重要な要件も契約に反映することが大切です。双方の役割と責任を明確にすることで、安定した取引関係と継続的な協力体制を築きやすくなります。
継続的にコミュニケーションを取る
SRMでは、問題が発生したときだけ連絡するのではなく、日頃から継続的にコミュニケーションを取ることが重要です。定期的なミーティングや進捗共有の機会を設け、需要予測、在庫状況、納期、品質、今後の販売計画などを共有することで、双方の認識をそろえやすくなります。また、サプライヤー側の課題や要望も把握しやすくなり、納品遅延や供給不足などのリスクを早い段階で察知できる可能性があります。
さらに、自社から一方的に要望を伝えるのではなく、改善点や成果についてフィードバックを行い、双方で解決策を検討する姿勢も大切です。継続的な情報共有を通じて信頼関係を築くことで、急な需要変動やトラブルにも協力して対応しやすくなり、長期的で安定した取引関係につながります。
サプライヤーリスクを継続的に確認する
SRMでは、取引開始時だけでなく、取引継続中もサプライヤーのリスクを定期的に確認することが重要です。財務状況、供給能力、品質、納期実績、法令遵守、情報セキュリティなどを継続的に確認することで、問題の兆候を早期に把握しやすくなります。
また、自然災害や国際情勢、原材料価格の変動、物流網の混乱など、外部環境によって新たなリスクが発生する可能性もあります。重要なサプライヤーについては、代替調達先の確保や在庫水準の見直し、緊急時の対応手順などもあらかじめ検討しておくと安心です。リスクの大きさや発生可能性を定期的に評価し、必要に応じて対応策を更新することで、供給停止や品質トラブルによる影響を抑え、安定した調達体制を維持しやすくなります。
重要なサプライヤーを適切に評価する
SRMでは、事業への影響が大きい重要なサプライヤーを定期的かつ適切に評価することが重要です。評価する際は、価格だけで判断するのではなく、納期遵守率、品質、不良率、供給の安定性、対応力、改善提案、コンプライアンスなど、複数の観点から総合的に確認します。また、サプライヤーごとの役割や重要度に応じて評価基準を設定し、同じ基準を一律に適用しないことも大切です。
高い成果を上げているサプライヤーには、取引拡大や長期契約などを検討し、協力関係を強化していきます。サプライヤーにとって自社の重要度が高くなれば、供給能力のひっ迫といったトラブルが起きた場合にも、優先的に対応してもらえる可能性が高まります。
まとめ
SRM(サプライヤー関係管理)は、サプライヤーとの関係を良好にしていくことで、調達の安定化や品質向上、リスク低減、コスト最適化などにつなげる取り組みです。効果的に進めるには、サプライヤーを重要度やリスクに応じて分類し、重要な取引先との連携を強化したうえで、KPIを設定して定期的に評価と改善を行っていくことが重要です。
また、価格だけでなく、品質や納期、供給力、対応力なども含めて総合的に評価する必要があります。SRMツールやShopifyと連携できるアプリなども活用しながら、サプライヤーとの長期的な強直体制と信頼関係を築くことで、安定した事業運営につなげられます。
SRMに関するよくある質問
SRMとは何の略?
SRMは「Supplier Relationship Management」の略で、日本語では「サプライヤー関係管理」と訳されます。調達プロセスにおいて、品質向上や供給の安定化、リスク低減、コスト最適化などを実現するため、サプライヤーとの協力関係を深められるように管理していく取り組みです。
SRMではどのようなKPIを設定すればいい?
代表的なKPIには、納期遵守率、不良率、欠品率、リードタイム、コスト削減率、問い合わせへの対応速度などがあります。すべてのサプライヤーに同じ指標を設定するのではなく、取引内容や重要度、管理目的に応じて適切なKPIを選ぶことが重要です。
SRMは中小企業でも必要?
中小企業でもSRMは有効です。取引先の数が少なく、特定のサプライヤーへの依存度が高い場合は、供給停止や納期遅延による影響が大きくなる可能性があります。重要なサプライヤーを把握し、定期的な情報共有や評価を行うことで、調達リスクの低減につながります。
SRMを導入する際は何から始めればよい?
まずは現在取引しているサプライヤーを整理し、取引金額、供給への影響度、代替可能性、品質、納期などを基準に分類します。そのうえで、特に重要なサプライヤーを特定し、管理する目的やKPI、評価方法、コミュニケーションの頻度などを決めると進めやすくなります。




